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男女におけるマスターベーションの意味や近年の変化は?最新の研究論文からわかること
重見大介
* * *
マスターベーション(自慰行為)は、多くの人が経験する身近な性的行動です。
ただ、
「するのは健康によくないのでは」
「パートナーがいるのにするのは、関係がうまくいっていないから?」
「男女で意味が違うの?」
など、あまり人には聞けないし正解もわからない疑問を抱いている人は少なくないかもしれません。
今回は、英国の大規模な全国調査を分析した新しい研究をベースに、日常的なマスターベーション実施率はどのくらいなのか、女性と男性でどのような共通点や違いがみられたのか、などを丁寧に読み解いてみます。
この記事でわかること
マスターベーションと健康の関係
マスターベーションに関するよくある誤解
英国の調査研究:日常的な実施率や変化、性別や年代の違い
女性は「性生活をより豊かにするため」、男性は「性行為の代わり」という説は本当なのか
性生活における不満や性機能の問題と、マスターベーションの関係
パートナーがマスターベーションをしていることをどう考えればいいのか
性に対する考え方とマスターベーション実施の関連
今回の研究結果から最も学びになるメッセージは何か
マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
* * *
マスターベーションは「性の健康」とどう関係する?
マスターベーションとは、一般に、自分の身体、とくに性器などに触れたり刺激を加えたりして、性的な心地よさや興奮を得る行為を指します。
オーガズムに至る場合もあれば、至らない場合もあります。手指を使う人、性のために作られた器具(いわゆる「大人のオモチャ」など)を使う人、性器以外への刺激を含める人など、その方法はさまざまです。
まず押さえておきたいのは、「する人が正常で、しない人は異常」「回数が多いほど性欲が強い」といった単純な基準はないということです。
関心がない人も、ほとんどしない人も、定期的にする人もいます。同じ人でも、年齢、体調、妊娠・出産、月経周期、仕事の忙しさ、ストレス、服薬、パートナー関係などによって頻度は変化します。本人が望んでおらず、困ってもいないなら、しないことを問題にする必要はありません。
世界保健機関(WHO)は、性の健康を、「単に病気や性機能の問題がない状態ではなく、性に関する身体的・感情的・精神的・社会的なウェルビーイング」として捉えています(文献1)。
そこには、
性や性的関係に対する肯定的で尊重ある姿勢
安全で心地よい経験
強制や差別、暴力を受けないこと
などが含まれます。
つまり性の健康を考えるうえでは、「何をするか」だけでなく、自分で選べているか、安全か、苦痛がないか、自分や相手の尊厳が守られているか、が重要ということですね。
少し医学的に整理してみましょう。
マスターベーションは、一人で行い、精液が腟や外陰部周辺に付着しなければ妊娠の可能性はなく、器具を人と共有しない限り性感染症のリスクも基本的にありません。自分が心地よいと感じる刺激や、反対に苦手な刺激を知るきっかけになり、パートナーに希望を伝えやすくなる人もいます。
英国NHSの情報でも、すべてのジェンダーにとって自然な行動であり、頻度は個人によって異なると説明されています(文献2)。
また、「将来の不妊につながる」「性器が変形して元に戻らなくなる」「体力や精力が失われる」といった俗説を裏づける医学的根拠はありません。ただし、強すぎる摩擦や長時間の刺激によって、一時的な赤み、腫れ、擦り傷、痛み、感覚の鈍さなどが生じることはあります。痛みを我慢せず、必要に応じて潤滑剤を使い、器具を性器に挿入する場合はちゃんと用途に合った製品を適切に使用しましょう。肛門に使用した手指や器具を、洗浄やコンドーム交換をせず腟や外陰部に用いることも感染予防のため避けましょう。
マスターベーションにおける問題を考える場合には、頻度そのものよりも、
やめたいのに我慢・コントロールできない
睡眠や仕事、学業、人間関係に悪影響が及んでいる
強い罪悪感や不安が続く
刺激による痛みや出血がある
といった状況があるかどうかが重要です。困りごとがあれば、早めに産婦人科、泌尿器科、心療内科・精神科、性機能を扱う専門外来などに相談してくださいね。
英国の全国調査:日常的な実施率や変化は?性別や年代の違いは?
ここから、今回取り上げる研究を紹介します。
どんな研究か
英国の「National Survey of Sexual Attitudes and Lifestyles(Natsal)」という全国調査を使い、マスターベーションの経験・実施率の変化と関連要因を分析した論文が2025年にオンライン公開され、2026年の『The Journal of Sex Research』に掲載されました(文献3)。
Natsalは、イングランド、スコットランド、ウェールズの一般住民から、特定の属性に偏らないよう確率的に対象者を選んで実施される大規模調査です。今回の経年比較には、1999~2001年のNatsal-2に参加した16~44歳の11,161人と、2010~2012年のNatsal-3に参加した同年齢層の9,902人が用いられました。関連要因の分析には、Natsal-3の16~74歳、計15,162人のデータが使われています。
*研究論文だとどうしても調査から論文化まで時間がかかってしまうことが難点で、今回の研究でも10年ほど前の調査結果がメインになっています。このため、最新のトレンドを分析した研究ではない、ということを踏まえて理解していきましょう。
センシティブな項目は、面接者に口頭で答えるのではなく、コンピューターへ自分で入力する方式でした。
「最後にマスターベーション、すなわち自分自身を性的に興奮させたのはいつか」と尋ね、「過去7日以内」または「7日前から4週間前」と回答した人を、「過去1か月に経験した人」と定義しています。年齢や地域などが英国人口の構成に近くなるよう重み付けも行われました。
主な結果
16~44歳で過去1か月にマスターベーションをした割合は、女性では1999~2001年の37.0%から、2010~2012年には40.3%へ増加しました。男性でも73.4%から77.5%へ増加し、いずれも統計学的に有意な変化でした。
年齢別にみると、女性では25~34歳で38.9%から43.7%へ、男性では16~24歳で73.2%から82.6%へ有意に増加しました(他の年代では有意な増加ではありませんでした)。
また、カジュアルなパートナーまたは安定したパートナーがいる人では男女とも増加しましたが、パートナーがいない人では有意な変化がありませんでした。「パートナーがいないから日常的に実施する人が増えた」というわけではなさそうですね。
生涯に一度も経験したことがないと回答した割合は、女性では28.5%から24.1%へ低下しました。一方、男性では両時点とも5.0%で、明確な変化はありませんでした。男性ではもともと「一度もない」と答える人が少なかったため、さらに低下する余地が小さかったとも考えられますね。
このような「日常的にマスターベーションをしている人が増えている」という結果を踏まえ、研究者らは、マスターベーションに対する社会的な受容の広がりや、インターネット、スマートフォン、オンライン上の性的コンテンツへのアクセスの変化などが背景にあるのではないか、と言及しています。
ただし、この調査は増加の理由を直接検証したものではありません。インターネットやアダルトコンテンツの普及が原因だったと断定することはできず、回答しやすい社会的雰囲気になったことで、以前より申告が増えた可能性もあります。
女性は「性生活をより豊かにするため」、男性は「性行為の代わり」という説は本当なのか
マスターベーションとパートナーとの性行為の関係については、これまで大きく二つの考え方が示されてきました。
一つは「代替的・補償的モデル」です。希望するほどパートナーとの性行為ができないときに、マスターベーションがその代わりになるという考え方です。
もう一つは「相補的モデル」で、パートナーとの性生活が活発な人ほど性的関心も高く、マスターベーションも性生活の一部として行うという考え方です。
生成AIを用いて著者作成。
従来は、男性では代替的、女性では相補的な傾向があると説明されることがありました。今回の研究でも、「実際の性交頻度」だけを見ると、この見方に合う結果が得られています。
女性では、過去1か月のセックスがなかった人のマスターベーション経験率は23.7%、セックスが5回以上あった人では43.2%でした。年齢、社会経済状況、性的指向、過去1年間の性的パートナー数、交際状況などを調整した後も、セックスが5回以上の女性は、セックスがなかった女性よりマスターベーションを実施している傾向が強い結果でした。
つまり、女性では、パートナーとの性行為と一人でのマスターベーションが互いに排他的ではなく、どちらも広い性的関心や行動の一部になっている可能性があります。
男性では、単純な割合だけなら性行為の頻度が高い人ほどマスターベーション実施率がやや高い結果に見えました。しかし、背景要因を調整すると、セックスが5回以上あった男性は、セックスがなかった男性よりマスターベーションを実施していない傾向にありました。
つまり、男性では、パートナーとの性行為が十分にあると一人で行う必要性が下がるという、代替的な面が示唆されます。
ところが、「本人が現在の性行為の頻度をどう感じているか」に注目すると、このように単純に男女差を断定するのは難しくなりそうなのです。
現在より性行為を増やしたいと答えた人は、「今の頻度でちょうどよい」と答えた人に比べ、過去1か月のマスターベーション実施の調整後オッズが女性で1.85倍、男性で2.65倍でした。逆に、性行為の頻度を今より減らしたい人では、男女ともマスターベーションの回数が減る傾向にありました。
*なお、オッズ比は「実施する確率がそのまま何倍」という意味ではなく、集団間の関連の強さを示す指標です。
つまり、実際の性行為の頻度が同じでも、それを「十分」と感じるか「もっとしたい」と感じるかで、マスターベーションの意味は違っていそうだ、ということですね。回数だけを見ると女性は相補的、男性は代替的に見えても、満たされているかどうかという感覚まで含めれば、男女とも「マスターベーションは自分が望む満足感までの不足を補う行動」になり得るのです。
また、女性の実施率が男性より低いことを、そのまま生物学的な性欲の差と解釈することもできません。女性の性的自己刺激は歴史的に抑制され、男性より強いスティグマの対象になってきました。「していることを言うのは恥ずかしい」という気持ちの表れや、行為を「マスターベーション」と認識する基準の違いも考えられます。
今回の結果は、身体的要因だけでなく、文化やジェンダー規範の影響を受けた「自己申告」であることを忘れないようにしないといけない、ということですね。
性欲のずれや性生活への不満とマスターベーション
この研究で特に興味深いと感じたのは、「マスターベーションが、単にパートナーの有無やセックスの回数だけで決まるのではなく、性生活の満足度や性機能の悩みとも関連していた」ことでした。
性生活における不満や性機能の問題と、マスターベーションの関係
性生活に不満がある人は、そうでない人と比べて、日常的にマスターベーションを実施しやすい傾向にあり、背景要因を調整したオッズは女性で1.98倍、男性で3.45倍でした。性生活について苦痛や不安を感じている人でも、男女とも実施しやすい傾向がありました。
また、パートナーとの「性欲のずれ」も関連していました。
自分とパートナーで性への関心の程度が一致していないと感じる人は、一致している人などと比べ、女性で1.33倍、男性で2.29倍、日常的にマスターベーションを実施する傾向にあるという結果でした。パートナーに性機能上の問題がある場合も、女性で1.43倍、男性で1.62倍でした。なお、性的な好みがパートナーと一致していない場合、男性では約3倍という関連がみられましたが、女性では明確な関連はありませんでした。
本人の性機能との関連も見てとれました。
オーガズムに達しない、または達するまでに時間がかかる人では、女性で1.59倍、男性で2.32倍、日常的にマスターベーションを実施しやすいという結果でした。性的なパフォーマンスへの不安がある場合も、女性で1.36倍、男性で2.32倍でした。女性では性交痛、男性では勃起の問題やオーガズムが早すぎることとも正の関連がみられました。
ここで、「マスターベーションをするから性機能の問題が起こる」と結論づけないようご注意ください。この研究は、ある時点での行動と悩みを同時に調べた横断研究であり、どちらが先かはわかりません。むしろ、パートナーとの性行為では緊張や痛み、相手への気遣いが生じる一方、一人なら自分のペースや好みの刺激を選びやすいため、マスターベーションで性的な心地よさを得ている可能性もあるでしょう。
また、性生活への不満を抱えている人がマスターベーションをしていても、マスターベーション自体が不満の表れとは限りません。満足した性生活の一部として楽しむ人もいます。行為の意味は、「したか、しなかったか」ではなく、本人がどのような動機で行い、どう感じているかによって異なりますからね。
パートナーがマスターベーションをしていることをどう考えればいい?
パートナーがマスターベーションをしていると知り、「自分では満足させられないのか」「隠し事や裏切りではないか」と不安になる人もいるかもしれません。
しかし、今回の結果からも、パートナーとの性行為とマスターベーションは単純な競合関係ではないと考える方が良いでしょう。相手への愛情や性的な満足感があっても、自分だけの性的な時間として、マスターベーションを好む人はいます。反対に、性欲のずれや性機能の悩みを調整する役割を担っている場合もあります。
大切なのは、行為の有無を責めることではなく、お互いがどの程度の親密さや性生活を望んでいるか、何に心地よさや負担を感じるかをきちんと対話できることだと思います。
ただし、全てを相手に報告する義務があるわけではもちろんなく、個人のプライバシーも尊重される必要があります。二人の境界線や約束事がズレる場合は、「普通はどうか」ではなく、互いに納得できるラインを相談し見つけていくことが大切です。
生成AIを用いて著者作成。
なお、性交痛、外陰部の痛み、出血、性器の乾燥、勃起や射精の問題などが続き、本人またはパートナーが困っている場合には、医学的な原因を探ることが重要ですし、身体疾患、ホルモン変化、薬の影響、心理的負担、関係性など複数の要因が重なることもあります。
産婦人科や泌尿器科への受診をためらわないでくださいね。
研究結果からさらに考えられること
他にも、興味深い結果があったので紹介します。
本研究では、性に対する考え方とマスターベーション実施の関連もありました。
「愛がなくても性行為をしてよい」と考える人では男女ともマスターベーション実施率が高く、「人は年齢とともに性的快感を求めなくなる」と考える人ではマスターベーション実施率が低い傾向がありました。
さらに、「男性の方が女性より性欲が強い」と考える女性では、マスターベーションを実施しにくい傾向にありました。ここについて、研究者らは伝統的なジェンダー規範が、女性自身の性的な主体性を抑えている可能性を指摘しています。
ただし、これらの結果は、誰か個人に当てはめて決めつけることに使うべきではありません。ある人がマスターベーションをしない理由は、関心がない、必要を感じない、宗教的・文化的価値観に合わない、疲れている、身体的に難しいなどさまざまです。する理由も、性的欲求、リラックス、睡眠前の習慣、自分の身体を知るため、パートナーとの性生活を補うためなどいくらでも理由はあります。
こうした研究知見を学んだとしても、誰かにレッテルを貼ったり勝手なイメージを持ったりすることは避けたいものですので、皆さんもどうぞご注意くださいね。
最後に、研究上の限界にも注意が必要です。
今回のデータは英国で得られたもので、日本での実施率や文化的背景にそのまま当てはめることはできません。回答は自己申告であり、恥ずかしさや社会的な価値観による過少申告の可能性も考えられます。
また、調査時の性別は女性・男性の二つに分類され、ノンバイナリーなど多様なジェンダーを把握できていません。分析で年齢や交際状況などを調整していても、測定されていない要因の影響は残ります。
マイオピニオン(総合的な私個人の考えや意見)
今回は男女におけるマスターベーションの意味や近年の変化をテーマに、最新の研究報告を踏まえて解説しました。いかがだったでしょうか。
では最後に、今回の研究結果から最も学びになるメッセージは何かを考えてみましょう。
個人的には、「人のマスターベーションに、何か一つの意味を勝手に持たせるべきではない」ということかなと思いました。
パートナーとの性行為を補う場合もあれば、活発な性生活の一部であることもあり、ただ自分で快感を楽しむ行為であることもあります。それは女性か男性かだけで決まるものではありません。パートナーの有無や既婚かどうかだけでも決まりません。
そして、することを恥じる必要も、しないことを恥じる必要もありませんし、誰かと比較する必要もありません。
安全で、自分の意思に基づき、生活に大きな悪影響がなく、本人が苦痛を感じていないなら、その人なりの性のあり方として尊重されるべきです。人から何かを言われる筋合いはないですし、逆に言う権利もありません。(下ネタとしてからかってくるような人は完全スルーでOKでしょう)
ただ、マスターベーションをする際には、清潔かつ安全にすることを忘れないでくださいね。
そして、痛みやパートナーとのすれ違いに困っているなら、自分だけで抱え込まず、パートナーに相談してみてほしいですし、症状があるならぜひ早めに医療機関を受診してくださいね。
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それでは次回もお楽しみに!
参考文献
WHO. Sexual health.
NHS. Relationships and intimacy.
Fischer N, et al. J Sex Res. 2026 May;63(4):498-509.
■ 無痛分娩で赤ちゃんに影響はある?約50万件の出産を調べた最新の研究結果を考える
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